西岡甲房の組紐復元製作
現在行われている組紐の多くは角台、丸台、高台という台を用いて、
江戸時代以来の技法で組まれています。
しかし、古代から中世まで主流であった組紐技法が近年明らかになり、
その技法を用いて組紐の遺品を復元する試みが増えて来ました。
この技法は世界中に分布して伝わっており、日本にも文献や絵画資料が残っています。
糸の端を輪にして組むので、「ループ操作法」と呼ばれますが、
我が国の文献に残る言葉から「クテ打技法」と称しています。
私はこの技法で組紐の復元製作を続けて30年になりますが、
糸の綾を取っていく手法が平易であり、一見複雑な意匠の組紐でも
それぞれの糸の経路をたどると非常に合理的な構成の上に成り立っていることが判ります。
糸にあまり無理がかからず、組手(クテ)という紙縒りを漆で固めた紐に絹糸を繋いで組めば、
絹の光沢を損なうことがないと江戸時代の文献には書かれています。
日本の中世の組紐は、撚りの甘い糸を使っていることが多いので、
頻繁に糸をさわりつつ組む台組みでは絹糸に毛羽が立ち、傷みやすいということです。
組紐は、甲冑、刀剣などの武具や家具調度や衣装、仏教や神道の諸道具などで
大量に使用され、消費されるものでした。
消耗品でもあるので現在そのほとんどが失われてしまったのは残念なことですが、
法隆寺や正倉院をはじめ各地の寺院、神社に伝わる宝物に付属して残っている組紐の遺品は
数百年から千年以上経ているにもかかわらず、色彩や文様がきれいに残っているものがあります。
素材に使われている絹は天然の動物性繊維で、本来は外部環境からの影響を最小限に抑えて
蚕の蛹を守る役目をするものです。
この絹が持つ特質がこれらの遺品を守った一因かもしれず、絹が持つ特性を
充分に引き出すための糸づくりは、復元製作においても大事なことです。
組紐の復元製作においては、復元をする原品の組紐がどのような繰糸や撚糸の仕方をしているかを
調べたうえで使用する絹糸を選びますが、蚕の品種は多く、その時代に使われていた品種を特定するのは困難です。
紐を組む技法も「クテ打技法」が主流であった古代や中世から、丸台や高台技法と共存していた
江戸時代へという変遷があり、染色もまた時代の好みを反映しています。
これらを踏まえた上での組紐の復元は困難なことが多く、入手できる材料も限られていますが
復元と保存のために出来る限りの努力をして行きたいと考えています。